めまいの原因をどう見分けるか:医学的エビデンスに基づく実践ガイド
「めまい」という言葉は、実はとても曖昧です。
ある人は「景色が回る」と言い、別の人は「頭がふわっとする」と言います。立ち上がると視界が白くなる人もいれば、歩くとバランスが崩れる人もいます。
そのため、医師が最初に尋ねるのはいつも同じ質問です。
「どんなタイプのめまいですか?」
なぜなら、めまいの種類によって原因が全く異なるからです。
中には自然に治る軽いものもありますが、脳卒中のように緊急対応が必要なケースもあります。
この記事では、めまいを医学的に4つのタイプに分け、症状だけで原因を推測できる方法を、研究データを交えながら分かりやすく解説します。
少しゆっくり読み進めるだけで、自分のめまいがどのタイプに近いのか、自然と見えてくるはずです。
医学で使われる「めまいの4分類」
世界中の神経内科や耳鼻科のガイドラインでは、めまいを次の4種類に分類します。
- 回転性めまい(Vertigo)
景色がぐるぐる回る感覚 - 失神前状態(Presyncope)
意識が遠のき、倒れそうな感覚 - 平衡障害(Disequilibrium)
歩くとふらつき、まっすぐ歩けない - 非特異的めまい(Nonspecific dizziness)
ふわふわ、ぼんやり、説明しにくい不快感
この4分類は単なる表現ではありません。
それぞれ異なる疾患につながっているため、分類だけで危険度をある程度判断できるのです。
ハーバード大学やクリーブランドクリニックの解説でも、この分類が最初の診断ステップとして使われています。
回転性めまい:最も多いのは「内耳」のトラブル
回転性めまいは、世界が回っているように感じるタイプです。
目を閉じても回ることがあり、吐き気を伴うことも多いです。
よくある原因
- 良性発作性頭位めまい症(BPPV)
- 前庭神経炎
- メニエール病
- 中枢性めまい(脳の障害)
特にBPPVは、数秒〜1分程度の短い発作が繰り返されるのが特徴です。
寝返りを打ったり、顔を上に向けた瞬間に「ぐるっ」とします。
一方、前庭神経炎は数時間〜数日続く持続的なめまいが特徴で、歩くと体が一方向に流れることがあります。
危険なサイン(即受診が必要)
- ろれつが回らない
- 片側の腕・脚に力が入らない
- 二重に見える
- 立てない、歩けない
- 激しい頭痛を伴う
PubMedの研究でも、脳梗塞が内耳のめまいと誤診されるケースが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25813536/
失神前状態:血圧や心臓が関係していることが多い
このタイプは回転しません。
代わりに 「意識が遠のく」「倒れそう」「視界が暗くなる」 といった感覚が特徴です。
主な原因
- 起立性低血圧
- 脱水
- 貧血
- 低血糖
- 不整脈
- 降圧剤・利尿剤などの薬
特に起立性低血圧は、立ち上がった瞬間に 視界が暗くなり膝が崩れるような感覚 が典型例です。
危険な症状
- 胸の痛み
- 息苦しさ
- 心臓が飛び跳ねるような動悸
- 実際に気を失う
心臓が原因の「心原性失神」は事故につながることもあり、注意が必要です。
平衡障害:歩行中だけふらつくなら要チェック
このタイプは「歩くときだけふらつく」のが特徴で、座っていると症状はほとんどありません。
原因として多いもの
- 小脳の障害(脳梗塞など)
- パーキンソン病の初期
- 末梢神経障害(糖尿病など)
- 視力低下
- 加齢によるバランス機能低下
- 下肢筋力の低下
クリーブランドクリニックでも、平衡障害が脳の問題の初期サインであることが強調されています。
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/14739-vertigo
非特異的めまい:ストレス・姿勢・首の緊張が関係することも
このタイプは、言葉で説明しにくいめまいです。
- ふわふわした感じ
- 頭がぼんやりする
- 体が浮いたような感覚
- 不安感を伴う
主な原因
- 不安障害
- 過換気症候群(呼吸が浅く速くなる)
- 首(頸椎)の緊張
- 睡眠不足
- ストレス
- カフェインの摂りすぎ
- 薬の副作用
特に頸性めまいは知られていないことが多く、首や肩のこりが原因になることがあります。
PubMedの研究では、不安障害の患者の28〜45%が非特異的めまいを経験すると報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19320344/
タイプ別・簡単な原因の見分け方
🔵 景色が回る → 内耳の問題(BPPV・前庭神経炎・メニエール)
- 数秒:BPPV
- 数時間〜数日:前庭神経炎
- 耳鳴り・難聴:メニエール
- 神経症状あり:脳の問題
🟢 倒れそう → 血圧・心臓・貧血
- 立ち上がると悪化:起立性低血圧
- 息切れ・動悸・疲労:貧血
- 不整脈の可能性:動悸
🟡 歩くとふらつく → バランス・神経系の問題
- 小脳の障害
- 末梢神経の障害
🔴 ふわふわする → ストレス・過換気・首の緊張・睡眠不足
危険なめまいの見分け方(すぐに受診すべき症状)
- 激しい頭痛
- 片側の麻痺
- ろれつが回らない
- 二重に見える
- 歩行が困難
- 胸痛
- 意識を失う
こうした症状は脳卒中や心臓の問題が隠れていることがあります。
医師が行う診断プロセス
- めまいのタイプを分類
- 発症のタイミング・きっかけを確認
- 神経学的検査
- HINTSテスト(中枢か末梢かを判断)
- 必要に応じてMRI
特にHINTSテストは、めまい患者の脳卒中を早期に見つけるのに非常に有効であることが論文で示されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19741722/
原因別のセルフケア方法
内耳系の場合
- 急激な頭の動きを避ける
- BPPVにはエプリー法
- メニエール病は塩分控えめ
血圧・心臓系の場合
- ゆっくり立ち上がる
- 水分をしっかり摂る
- 鉄分不足をチェック
神経・平衡系の場合
- 下肢や体幹の筋力強化
- ビタミンB12不足の確認
- 視力の矯正
ストレス・首の緊張の場合
- 深い呼吸法
- 肩・首のストレッチ
- カフェインの制限
- 睡眠習慣の改善
結論:めまいは「感じ方」で原因のヒントが分かる
めまいは厄介に思えるかもしれませんが、実際には感じ方だけで原因の方向性をかなり絞ることができます。
- 回る → 内耳
- 倒れそう → 血圧・心臓
- 歩くとふらつく → 脳・神経
- ふわふわ → ストレス・睡眠・首
もちろん最終的な診断は医師が行うべきですが、自分の症状の種類を知るだけで「今、何が起きているのか」を正しく理解する助けになります。
⭐ よくある質問(FAQ)
Q1. めまいが1日中続くのは危険ですか?
前庭神経炎などが考えられますが、神経症状があれば受診が必要です。
Q2. 横になるとめまいが悪化します。BPPVですか?
数秒間の短い回転感ならtypicalです。
Q3. 疲労や睡眠不足でもめまいは起こりますか?
はい。とても一般的な原因です。
Q4. 首のこりがめまいの原因になることはありますか?
あります。頸性めまいは見過ごされがちです。
Q5. めまいがあるとMRIを必ず撮るべきですか?
危険サインがなければ必ずしも必要ではありません。